Accessによる生産管理改善の進め方 - 3

W 重複作業やデータを統合する

情報の電子化がある程度進むと、はじめはよいのですが、今度はその電子データ自体が見えなくなってきます。たとえば、同じような生産計画情報が保存されているExcelファイルなのに、ある担当者は「2010年12月生産計画表.xls」と名前を付け、別の担当者は「生産計画201101.xls」などと付けたりしていると、もう訳が分からなくなってしまいます。探すのに時間が掛かったり、すでにあるのに同じようなワークシートを別の人がせっせと作っていたり、そんな状況さえ起ってしまいます。

そこで重要なのは、「同じようなものは作らない」ということです。また「作らせないためのルール」も必要です。文書管理ソフトを使うのもひとつの手ですが、サーバー上の保管先を決めたりルール化を行ったりすることで、小規模であれば特にそのようなソフトなど使わなくてもうまく運用できるはずです(よく“運用でカバーする”なんて言いますね)。

たとえば次のような具合です。
  • 工程担当者が作る生産計画表はサーバーの「生産計画」フォルダの下に「生産計画YYYYMM.xls」(YYYYMMは年月)といったような名前で保存する
  • そのファイルは、工程担当者以外は編集してはいけない(本来はそのようなセキュリティ上の設定を行うのがベターなのですが運用ルールでもよいでしょう)
  • そのファイルを流用して別の資料を作る際には、そのファイルを自分のパソコンにコピーしてから加工を行う
  • 現場管理者がその計画から作業指示書を作る場合には、そのファイルを「生産指示」フォルダの下に「生産指示YYYYMM.xls」という名前で保存したあと、加工して上書きする

また、すでにそのような似た電子データがある場合には、一定の時期に一度見直してみることが重要です。電子データとしてパソコン内に一度格納されてしまうと、なかなか必要なものなのか要らないものなのか分からなくなってしまい、不必要なものまでどんどん蓄積されていってしまいます。何らかのタイミングでそれを抑制し、パソコンを使う上での重複したムダな作業が担当者間に起っていないか、同じようなデータをいちいち入力するような手間が起っていないか、チェックしてみます。

そしてそのようなデータが見つかった場合には、電子データの作成ルールを検討するとともに、同じような情報をひとつにまとめることが肝要です。
たとえば、上記とも重なりますが、次のようなことを行います。
  • 同類情報は同じフォルダに置く
  • 同類の時系列データは同じExcelファイルの別のワークシートで管理する
  • 取引先データや製品データといったマスタデータについてはサーバーにひとつだけ作りそれを複数の人がコピーすることで重複入力を避ける
  • どのフォルダにどのようなファイルがあるか、目次のようなものをファイル化するなどして誰でも見られるようにする
  • あまりに古いファイルは一定期間で破棄するか別の媒体にコピーしてしまってしまう。

そこでポイントです。

『似たような作業を複数担当者が繰り返していないか、同じようなデータを複数担当者がダブっ作っていないかチェックする』



X 情報をデータベース化する

さて、ここから本題のデータベースソフトであるMicrosoft Accessの利用法です。

Accessは、お馴染のExcel・Word・PowerPointと同じMicrosoft Officeファミリーの中のひとつのソフトです。ただそれらと比べて、パソコンにプリインストールされていないこと、Officeの高いエディションや単体で買わないと入手できないこと、他のソフトに比べて入門書が少なかったりしてちょっと敷居が高いことなどもあって、今ひとつ馴染みは薄いかもしれません。

しかしながら、Accessは比較的ビジネスユースで使われることが多く、何と言ってもビジネスに大量のデータは付きものですので、そのようなデータ処理には非常に秀でたソフトウェアです。

そこでここでのポイントです。

『情報をデータベース化し、定型業務の標準化と非定型業務のデータ活用のためにAccessを利用する』

まず、データベースとは何なのか考えてみましょう。データベースとは、用途に応じたさまざまな情報が一定の規則に従って整理されたデータの集まり、もしくは集める器と考えることができます。たとえば、顧客情報や製品情報とともに趣味に関する情報がひとつのファイルに保存されていたとしてもそれは雑多なデータがあるだけで整理されているとは言えませんね。“顧客管理データベース”という器に顧客情報や購入実績情報、あるいは購入される商品のマスタ情報が保存されていてはじめてデータベースと言えるわけです。

またExcelでは、同じ列に、ある行には顧客名を入力して、他のある行には売上数量を入力し、また他のある行にはコメント的な文章を入力するといったことが自由にできます。これはExcelが表計算ソフトであり、“セル”という単位の集まりになっているからです。これに対してAccessはデータベースソフトであるため、そのような自由勝手なデータ入力はできません。顧客名を入力すべて列にはすべての行について顧客名(正確には文字データは入力できますが)、数量を入力すべき列にはすべての行について何らかの数値を入力するというように、厳密なデータ管理が行われるようになっています。

というと、またAccessは気難しそうだと思われるかもしれませんが、そのようにデータを管理することによって、定型業務においてデータが正確に保存できますし、大量のデータ処理にも適した保存形式となっているのです。使う人それぞれによって適当にデータ入力されたのでは困る場面は多々あります。またそれがExcelのようにできてしまってはデータベースソフトを使う意味もありません。Accessは「データをしっかり管理するためのソフトである」と考えることができるのです。

でも、「Excelにもデータベース機能はあるじゃないか」という意見もあるかもしれません。ではAccessはExcelと何が違うのか、またAccessを使うメリットとは何なのか、そのいくつかを列挙したいと思います。
  • 大量のデータを保存・処理できる
  • データ量が増えてもパフォーマンスが落ちにくい
  • データは1件ごとに保存されるので、安全性が高い
  • 厳密な入力チェックによってしっかりとした整合性の高いデータ入力が行われる
  • ひとつのマスタデータをさまざまなところから利用することができ、入力効率化やデータの整合性が取りやすい
  • 郵便番号からの住所自動入力、氏名のふりがな自動入力など、入力に関する支援機能が豊富
  • 並べ替え/抽出/集計といった処理が高速でかつ複雑な処理が可能
  • 複数のデータを結合して新たなデータを作り出すことができる
  • データの一括更新・一括追加・一括削除などの処理が高速に行える
  • 入力画面や帳票を独自にデザインできるので、優れたインタフェースを作ることができる
  • ユーザーによって編集可能な画面・編集不可の画面を切り分けることもでき、勝手なデータ登録を防ぐことができる
  • グループ集計、グループごとの改行制御、あるいは複雑なデータ処理をした帳票を出力できる
  • 宛名ラベルやハガキ等の印刷がウィザードで簡単に行える
  • マクロやモジュールと呼ばれる機能を用いることで、繰り返し操作をボタンのクリックひとつで簡単に実行させたり、複雑なデータ処理を行わせたりすることもできる
  • ExcelやCSVファイルの取り込み/出力などが可能
  • 複数ユーザーによるデータの共有が簡単かつ安全に行える
  • 将来的にSQL ServerやOracleといった本格的なデータベースへの移行がしやすい

確かにExcelの方がよいケースも実際には多々あるのですが、以上のように定型的な情報管理にはAccessは非常に優れたソフトです。また、Accessで基本情報をしっかり管理し、それを他に流用して活用したいといった場合には、Excelにデータだけをコピー&ペーストして加工するといったこともできます(非定型業務への活用ですね)。Excelなどをメインとした電子化が進んだら、そのデータ内容をチェックし、あちこちで使える情報、きちんと管理すべき情報などをデータベース化していきましょう。

生産管理に限らず、多くのビジネス系ソフトではその後ろでデータベースが使われています。ソフトウェアを作るにはいろいろなプログラム言語や開発ツールがあり、何もAccessだけではないのですが、ビジネス系ではデータが重要ですし、量も多くなることが常ですから、画面周りは別としてデータそのものの保管先としてデータベースはしばしば使われるのです。販売管理システム、会計システム、顧客管理システムなど、よく見てみれば、みな定型的なデータを扱っていることは想像できると思います。生産管理もそうです。受注データ、発注データ、生産計画データ、出荷データ、製品・部品データ、取引先データ、在庫データ、すべて一定のルールで羅列できるデータの集まりです。まさにデータベースが適している情報ばかりと言えるのです。


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